今回のケガの経緯はチームメイトの話によれば、夫が守備で捕球しようとしていた所にランナーが衝突、そのままパタリと倒れそれきり反応が無くなってしまったそうだ。
ぶつかった瞬間を見た者は誰もいなかったが、近くにいた人は「ブチッ」という鈍い音を聞いたらしいのでかなりの衝撃があったと推測できる。
スポーツでこんな大ケガをするなんて。
夫は登山家でもラガーマンでもない。趣味でソフトボールを楽しんでいただけだったのに…
家に戻ってからも気持ちは落ち着かなった。何もせずにはいられず、明け方までインターネットで頚髄損傷について調べまっくた。何番を損傷すると体のどこに影響があるのか、回復はするのか、どんな後遺症が残るのか。
検索を進める中で再生医療に触れている記事にあたった。
ケガをする1年前の2018年に札幌医科大が総合医療メーカーのニプロと開発した『ステミラック®注』が認証されたばかりだった。上手く説明できないのでニプロのホームページから以下を引用し案内させてもらう。
ステミラック®注とは?
ステミラック®注は、脊髄損傷患者に対する治療を目的として、患者本人から採取した骨髄液中の間葉系幹細胞(自己骨髄間葉系幹細胞)を体外で培養・増殖させた再生医療等製品です。
ステミラック®注は、患者本人の末梢血及び骨髄液を採取して製造するオーダーメイドのヒト細胞加工製品であり、受傷後31日以内を目安に骨髄液採取を実施することが可能な脊髄損傷の患者を対象としています。ステミラック®注の原理・メカニズムとは?
ステミラック®注は、遊走能、神経栄養因子等の分泌、免疫調節能、分化能を示すことが確認されています(in vitro)1~4)。
投与されたステミラック®注の構成細胞は損傷部位へ集積し、神経栄養因子等を介した神経保護作用を引き起こし、免疫調節、神経系細胞への分化、その他複数の機序により神経症候を改善すると推察されます5, 6)
引用:https://med.nipro.co.jp/reg_stemirac_about ステミラックⓇ注につて
ざっと把握できたのは、患者の骨髄から採取した幹細胞を培養、増殖して患者に戻すことで機能改善が期待できるという事らしい。
場所は遠いが、中国地方から北海道まで行って治療を受けたという記事もあり少し希望が湧いてきた。
次の日、担当医に恐る恐るそのことについて尋ねてみた。
30代位の若い医師は検討してみる価値はあると、早々に札幌医科大に送る書類の準備に取り掛かってくれた。多忙な勤務の中、申し出を受け入れて下さったことに感謝しかなかった。
後日、担当医から私の携帯に連絡が入った。直接電話が掛かってくるとは思っていなかったのでコレは!と私のテンションは上がった。
「ご主人の再生医療の件で札幌医科大から返信がありました。治療に必要な全ての要件は満たしており是非受け入れて差し上げたいのですが、残念なことに再生医療の病床が埋まっていて現在、ご希望には添えないとの事でいた。」
要件を満たしていると聞いて溢れた涙はすぐに悔し涙にかわった。
それもそのはずで日本では年間約5,000人の脊髄損傷患者が発生しているらしい。ひと月当たりに換算してもざっと400人にも及ぶ。
電話を切った後も諦めきれなくて模索した。大阪にも再生医療を行っているところがあったが、年齢制限がありもう50代の夫は対象外だった。
『ステミラック®注』とは違う再生医療を行っている病院もあったが、保険適用外の治療となり数百万の費用がかかるとのことだった。
当時取り組み始めたばかりだった慶応大学にも問い合わせてみたがダメだった。
最後はダメ元でニプロに現在再生医療を進めている病院はないか問い合わせてみた。有名企業にも関わらず私のような一個人にも丁寧なメールで、紹介できる医療機関はない旨と温かなお見舞いの言葉を添えた返信が送られてきた。
病院に行き、担当医に多忙な中で最善を尽くしてくださった事にお礼の意を伝えると、
「今回は残念でしたが当院には高圧酸素療法の機械があります。コレも有効な治療法ですので頑張っていきましょう!」
と私を励ますように力強い声で答えてくれた。
その言葉に(あぁ、落ち込んでいる場合じゃあない。今できる事をやるしかないんだ。前を向いて進んで行こう)と改めて心に決めた。
~入院から退院まで~(再生医療)