看護師に呼ばれ、パーテーションで仕切られた小さな部屋に通されると、医師が数枚の写真を指しながら淡々と説明をし始めた。
「3.4番頚髄に損傷が認められますね、白っぽく映ってるところです。それと5番目の頸椎を骨折しているようです。ボルトで固定する手術をするかもしれませんが、週明けのカンファレンスで最終決定をします。ずれなどは無さそうなのでこのままコルセットで様子をみるかですね。」
そこまで聞いた時点でもう逃げ出したい気持ちになった。医師は追い打ちをかけるように続けて、
「ケガから現在約3時間以上経過してショック状態からは抜けていると思われます。身体に反応があるか検査したのですが随意的肛門収縮は見られませんでした。この場合胸から下の運動機能は回復しない可能性が高いと思っていて下さい。」
何か質問はありますか?と聞かれ、今後は車いすの生活になるのか震える声で尋ねると、
「今の段階ではそれはわかりません。イスに固定して座らせることは出来ても問題はそれだけではなくて、頸椎を損傷すると血流や血圧の調整が上手く出来ずに起立性低血圧症を起こしやすくなります。排尿や排便の障害も起きます。車いすに座れるようになるかどうかも今は分かりません。」
想像を遥かに超える返答に私は言葉を失った。
TVドラマの世界のようなことが今、目の前で起きている。
こんな劇的な急展開は私の人生には要らないのに。
寒気がするようなひどい孤独を感じた。全く知らない場所にポイと置き去りにされたような救いのない境地だった。
その後夫はICUに運ばれて行き、私は病院に駆けつけてくれた親族に何度も同じ説明を繰り返した。
「頚髄を損傷していて、後遺症が残るらしい」と。
ICUに行くと様々な機器に繋がれた夫が天井を見ていた。声を掛けると
「あぁ、足を伸ばしてくれない?立膝になってるやろ。キツイ」
と言われ私は困った。
「え?足は真っすぐに伸びてるよ、大丈夫、曲がってないよ。」
夫は怪訝な顔をしながら
「おかしいなぁ。手足の痺れが強くて長い時間正座した後みたいに痛いんだよね、曲がってないか。」私は取り合えず手や足を擦ってみた。出来ることはソレくらいしかなかった。
帰り際、手続きがあると看護師に呼ばれた。延命措置や中心静脈栄養カテーテル、胃ろうが生じた場合の為の様々な書類が準備してあった。
それを前に、私は急に涙が止まらなくなった。手が震えて上手く書けなかった。
泣きながらサインをする私に看護師が優しく慰めてくれたが何を言われたか全くおぼえていない。
書類を書き終えると最後に
「処置の時に体を動かせなかったからコレ、ごめんなさいね。」
とハサミでバラバラに切られたユニフォームを渡され病院を後にした。
~入院から退院まで~(頚髄損傷と後遺症)
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